「まかない」とは、前述の通りお店のお手伝いをすると1食無料になるシステムで、自分で食べずに「ただめし券」として誰かに譲ることもできるというものです。
では、なぜこのようなシステムを考え出したのでしょうか。
まず、店主せかいさんの根底にあるのが『誰もが受け入れられ、誰もがふさわしい場所』という理念。
そして店主の修業時代に「短期間の就業希望はことごとく門前払いを食らった」ことに端を発します。
店側は、短期間では使い物にならず教える労力がムダになるから受け入れないという理由で短期就業を断っているのですが、せかいさんはそこに疑問を持ちました。
働きたい人間がいるのだから、人手不足なら1日でも1時間でも役に立つはず。それができないのは、仕組み自体に問題があると考えました。
お店に、初めて、50分だけ、働く人間が来た時に、何が問題になるのか。そこをとことん突き詰めて考え、そしてその解決策も考えます。
例えば、
「初めて来た人は店の勝手がわからない」→「誰もが見ただけでわかる仕組みにしたい」→「備品を入れる袋の区別がひと目でわかるように色で分類しよう」
また、
「初めて来た人は店のルールがわからない」→「来た時点である程度ルールがわかっている状態にしたい」→「あらかじめルールを作り、来る前に読んできてもらおう」
と、このように問題点と解決法を極めて論理的に考えていきます。
もちろん、実際働いている最中にいろいろな指示は飛びます。ですがこのような土台の仕組みがあるからこそ、初めての人でも短時間でもその人の能力関係なく誰でも働ける環境ができあがっているのです。
しかし今、こんなことを思われたのではないでしょうか。
(うちは○○だからこんなことはできない)
もちろん、実行が難しい理由は山ほどあります。倉庫が狭いからモノを入れるだけでいっぱいだ、ルールなんて作るのがめんどくさい、そもそもそんな時間はない。
それはもちろんわかります。ですが、その理由をどうしたら解決できるかを考えることで少しずつ道が開けるのではないでしょうか。
倉庫が狭いからモノを入れるだけでいっぱいだ→不要なモノはない?在庫が多すぎるモノはない?箱や棚で入れ方を整理してもムリ?
そもそもそんな時間はない→どうしたら時間を作れる?工夫で時間短縮できることはない?
今まで当たり前と思ってきたことに、意外と改善点はあるものです。日々の業務の中で、当たり前の中に違和感を覚えたら、見逃さずにこれは本当に当たり前なのか、必要なのかと掘り下げてみてください。そこにきっとムダを省く改善があります。
ですが、当のせかいさんも、始めから全てがうまくいっていたわけではありません。
あるとき、まかないさんに「水色のザルをください」と言ったところ、そこにあった水色のザル全部を持ってきました。自分が欲しかったのは1つ。そこでせかいさんは考えたそうです。
(普通に考えれば必要なのは1つ。でも、その「普通」とは自分にとっての普通。相手がどう考えるかはわからない。)
そこで、自分が曖昧な指示を出してしまったことに問題があるのだと気づいたと言います。それ以来、指示は「○○を△△個ください」と具体的にしているそうです。
毎日の業務の中で、「これは何が悪いのか。相手?それとも自分?」と常に自問自答しているので、細かい改善が積み重ねられていくのですね。
また、日々同じ場所で同じ業務をしていると、業務のムダや違和感を覚えにくくなってしまうのも事実です。そこで店主のせかいさんはこのようにもおっしゃっていました。違和感を覚えやすくするためにも、休みの日にはぜひ積極的に違う環境に足を運んでみてほしい。少し遠くに出かけるのでも、昔のことを調べるのでも、時間や空間でいつもと異なる体験をしてみることが、新たな視点の発見につながります、と。
今の環境に慣れてしまわないことが、より良いお店を作る秘訣になるのですね。
日々の店舗運営の中で、細かい改善を続けて行くことが、繁盛への一番の近道ということなのです。
●せかいさんの書籍●
【未来食堂ができるまで】
【ただめしを食べさせる食堂が今日も黒字の理由】
【やりたいことがある人は未来食堂に来てください 「始める」「続ける」「伝える」の最適解を導く方法】
【誰でもすぐに戦力になれる未来食堂で働きませんか ゆるいつながりで最強のチームをつくる】